中国の化粧品OEM工場を探すと、どの会社の資料にも「EU 対応」「FDA 登録済み」「輸出実績あり」と書いてあります。しかし、その言葉をそのまま信じて進めた日本のブランドが、いちばん高い授業料を払うことになります。EU 規則も米国法も、義務の主体は域内にいる責任者であって、中国の工場ではありません。本稿は「工場が輸出できるか」ではなく、「あなたが何を負い、何を準備し、どこでつまずくか」という順序で書きました。

1. 視点の反転:義務を負うのは工場ではなく、あなたです

日本のブランドや輸入事業者が中国の工場を使って EU や米国で販売するとき、実務上は二つの契約関係が重なります。

ひとつは製造委託(あなたと中国工場の関係)。品質、納期、単価、秘密保持がここに含まれます。もうひとつは上市責任(あなたと EU/米国の制度との関係)。責任者の指定、製品情報の提出、表示の適法性、有害事象の報告がここに含まれます。

この二つが混ざった瞬間に、「工場が大丈夫だと言っていた」という言葉が、もっとも危険な免罪符になります。中国の工場が持っているのは製造能力と試験成績書であり、あなたの製品を市場に置く法的資格ではありません。極端な言い方をすれば、工場は EU 規則上の義務主体として登場しません。登場するのは、あなたが指定した EU 域内の責任者と、米国で製品を列名する責任者です。

ですから、最初に決めるべきは工場ではありません。誰が責任者になるかです。ここを決めないままサンプルを作り始めると、処方が固まってから「この成分は EU では使えない」「この表示は米国では書き直し」が発覚し、数か月と数十万円を失います。


2. EU と米国は、まったく別のゲームです

まず枠組みを一度で押さえましょう。

項目EU(規則 (EC) No 1223/2009)米国(FD&C 法 + MoCRA)
上市前の手続きCPNP への届出(審査なしの届出制)施設登録製品列名(登録制)
処方の事前承認なし(安全性評価と表示の義務は重い)なし(色素添加物を除く)
域内の責任者Responsible Person(RP):EU 域内に設立された者Responsible Person + 外国施設は US Agent が必須
安全性の裏付けCPSR(化粧品安全性報告書)が必須。資格を持つ安全性評価者の関与安全性の十分な裏付けを保持する義務(記録として保持)
情報の保管PIF(製品情報ファイル)を最終バッチから 10 年間記録を保持(事業者規模により扱いが異なる)
成分規制の方式附属書 II〜VI のポジティブリスト中心原則ネガティブ方式、ただし州法が上乗せされる
有害事象重大な有害影響(SUE)の報告義務重大な有害事象を 15 営業日以内に報告
動物実験全面禁止連邦レベルでの全面禁止はなし(州法で制限)

この表で、とくに日本の事業者が見落としがちなのは最後の行です。後述しますが、ここが EU 向けの最大の落とし穴になります。


3. EU ルート:Responsible Person と CPNP の 6 ステップ

ステップ 1:RP を誰にするか

RP は EU 域内に設立された法人または自然人で、PIF の維持、安全性評価、CPNP 届出、表示の適法性、市場監視機関への協力、SUE の報告という一連の義務を負います。選択肢は三つです。

選択肢向いているケース留意点
自社の EU 法人欧州に販売会社がある、または長期展開する義務を直接負う。体制と人が必要
第三者 RP サービスまず 1〜3 SKU で試したい委託料は年間数万〜数十万円規模。POR(委任状)と PIF の所在を契約で明記
輸入者・代理店に兼務力のある現地パートナーがいるその会社に義務を依存する。契約終了時に製品が止まる

日本側に EU 法人がないなら、実務上は第三者 RP サービスが現実的です。ただし、POR に「誰が PIF を保持し、誰が表示を差し替える権限を持つか」まで書いておかないと、後でブランド側が製品情報を取り出せなくなります。

ステップ 2:処方のスクリーニング

EU は附属書がすべてです。禁止(附属書 II)、制限(附属書 III)、着色料(IV)、防腐剤(V)、紫外線防止剤(VI)がそれぞれリスト化され、リストに載っていない防腐剤・紫外線防止剤・着色料は原則として使えません。CMR 物質(発がん性・変異原性・生殖毒性)は原則禁止で、例外許可の枠組みがあります。

ここで重要なのは、日本向けや中国向けの実績がそのまま通用しないという点です。日本で広く使われている成分でも、EU では濃度上限が異なる、あるいは防腐剤として認められていないことがあります。したがって、処方を固定する前に「EU 向け」「米国向け」を明示して工場にスクリーニングを依頼してください。日本向けと同じ処方で見積もりを取るのが典型的な失敗です。

ステップ 3:PIF と CPSR を整える

PIF には、製品の記述、CPSR、製造方法と GMP の適合宣言、安全性評価者の氏名と資格、既存データがあれば動物実験の有無が含まれます。

CPSR は Part A(安全性情報)と Part B(安全性評価)から成り、SCCS の「Notes of Guidance」に沿って評価されます。費用は製品あたり概ね数百ユーロ規模(日本円で十数万〜四十万円程度が目安)、期間は 2〜4 週間程度を見ておきます。原料情報と安定性データが揃っていないと、ここで止まります。

ステップ 4:CPNP に届け出る

CPNP は審査ではなく届出です。製品カテゴリ、名称、RP の情報、成分(ナノ材料は明記)、表示、原本の所在を登録します。ナノ材料を含む場合は上市の 6 か月前までに別途届出が必要です。手続き自体は数日です。

ステップ 5:表示を EU 仕様に組み直す

表示要素EU で求められること
全成分INCI 名称、濃度降順。1% 以下の成分は順序自由
ナノ材料成分名に「nano」を付記
香料アレルゲン改正規則(EU)2023/1545 で対象が拡張。新製品は 2026年7月31日から、既存製品は 2028年7月31日から適用
内容量重量または容量
使用期限開封後使用期間(PAO)または最低使用期限
責任者情報RP の名称と住所を表示
原産国輸入品は表示が必要
バッチ番号追跡のために必須

ステップ 6:上市後の監視を設計する

SUE の報告、PIF の更新、表示変更の管理、クレームの記録、必要時の回収手順を、発売前に文書で決めておきます。EU では「発売してから考える」が通用しません。


4. 米国ルート:MoCRA、施設登録、そして US Agent

米国は MoCRA(Modernization of Cosmetics Regulation Act of 2022) によって枠組みが大きく変わりました。論点は四つです。

1. 施設登録。化粧品の製造・加工施設は FDA に登録し、2 年ごとに更新します。新規の施設は操業開始後 60 日以内が原則です。ここで登録するのは中国の工場です。

2. 製品列名。責任者が製品ごとに成分と表示などの情報を FDA に提出します。既存製品は 2024年7月1日まで、その後は市場投入後 120 日以内が目安です。

3. US Agent。外国にある施設は、米国の代理人(US Agent)の指定が求められます。日本のブランドが中国工場を使う場合、この US Agent は日本側の事業者が手配するのが実務です。US Agent の契約料は年間数万〜十数万円規模が一般的です。施設登録・製品列名そのものに FDA の手数料は現時点では課されていませんが、手続きを代行するサービス費用は別に発生します。

4. 有害事象と表示。重大な有害事象は 15 営業日以内に報告、記録は数年保持します。表示は FDA の化粧品成分命名に従い、香料は「fragrance」として一括表示が可能です。ただし州法が上乗せされます。カリフォルニア州のプロポジション 65、ハワイ州などの一部州における特定の紫外線防止剤の禁止、各州の成分開示法は、連邦法とは別に確認が必要です。

実務でいちばん多い誤解は「米国は EU より緩い」というものです。成分の入口は確かにネガティブ方式ですが、表示・有害事象・州法・広告訴訟のリスクを合わせると、決して軽くありません。とくに「日焼け止め」は、米国では紫外線防止剤の扱いが EU と根本的に異なります。この点は次節で触れます。

5. 成分のレッドライン:EU と米国はここまで違う

成分・カテゴリEU米国
防腐剤附属書 V のポジティブリスト方式。掲載外は使えないネガティブ方式。市販実績と安全性評価がベース
紫外線防止剤附属書 VI のポジティブリスト承認物質が非常に少なく、設計が大きく制約される
着色料附属書 IV のポジティブリスト認証が必要な色素と不要な色素の区分がある
パラベン類一部の長鎖パラベンは禁止・制限使用可(ただし州法と小売基準で制限が進む)
染毛剤附属書 III のリスト管理コールタール染毛剤は特別な警告表示で流通
ナノ材料上市 6 か月前の別途届出と表示任意の枠組みが中心
動物実験データ使用できない連邦レベルでは禁止なし(州法で制限)

最後の行が、日本のブランドにとって最大の実務リスクです。EU では、製品の安全性を動物実験のデータで裏付けることができません。中国の工場が中国国内向けに取得した試験成績書に動物実験が含まれている場合、そのデータは EU 向けの PIF には使えません。in vitro 試験、既存の安全性データ、原料の使用実績、人体試験など、別の裏付けを組み立て直す必要があります。

工場への最初の依頼文に、次の一文を入れてください。「この処方の裏付けデータに動物実験は含まれていますか。EU 向けには非動物試験の構成で提供できますか。」この質問に即答できない工場は、EU 向けの実務経験が乏しいと判断してよいでしょう。


6. 中国の製造委託先を選ぶ 6 軸

なぜ効くのか工場に聞くべきこと
1. 輸出実績の実体書類の整い方がまるで違う具体的な輸出先、RP/US Agent とのやり取りの経験、CPNP 届出への協力実績
2. INCI と濃度の開示表示とスクリーニングの土台全成分の INCI 名と濃度レンジを書面で出せるか
3. 試験成績書安全性評価の材料重金属、微生物、安定性、防腐効力、必要に応じてパッチテスト
4. 責任者リソース上市の前提RP/US Agent の紹介、または自社グループでの対応が可能か
5. 処方スクリーニング力やり直し費用を消す附属書ベースで処方を事前審査できる人材がいるか
6. 追跡と文書発生時の対応力バッチ記録、COA、変更管理、クレーム対応のフロー

付け加えるなら、7 本目の軸として「ISO 22716(化粧品 GMP)」を確認してください。EU は GMP への適合宣言を PIF の一部として求めます。米国でも MoCRA に基づく GMP の枠組みが進行しており、ISO 22716 が実務上の参照基準として広く使われています。


7. 費用・日程・最小発注数量の現実的な目安

項目目安
CPSR(安全性評価書)1 製品あたり数百ユーロ規模(日本円で十数万〜四十万円程度)
RP の委託料年間数万〜数十万円。SKU 数と製品情報の更新頻度で変動
US Agent の契約料年間数万〜十数万円
CPNP 届出・米国の登録手続き行政手数料はかからない。代行サービス費が別途
処方の改修数万〜数十万円。附属書に合わせた設計変更の規模次第
処方スクリーニング1〜2 週間
CPSR2〜4 週間
CPNP 届出数日
全体の所要期間1〜2 か月を見ておくのが安全
最小発注数量輸出向けは 3,000〜5,000 本程度が一般的

この費用構造を見ると、はっきりしたことがひとつあります。SKU を絞ったほうが、1 品あたりのコンプライアンス費用は下がります。いきなり 8 SKU を EU に並べるより、まず 2〜3 SKU で RP・CPNP・表示の運用を自分たちで回してみて、型ができてから広げるほうが、結果的に安くつきます。


8. 中国調達の 8 項目デューデリジェンス・チェックリスト

発注前に、この 8 項目を書面で確認してください。口頭での確認は記録に残りません。

  1. 法的位置づけ:EU の RP、米国の責任者と US Agent を誰が務めるか。POR と委託契約の文案があるか。
  2. 処方の二重スクリーニング:EU 附属書 II〜VI と、米国の州法(とくにカリフォルニア州)の両方で確認したか。
  3. 全成分 INCI と濃度レンジ:日本語ではなく英語の書面で受け取っているか。
  4. 試験成績書:重金属、微生物、安定性、防腐効力。動物実験の有無も明記されているか。
  5. GMP:ISO 22716 の認証、またはそれに準じる体制。
  6. ロット追跡:バッチ記録、COA、原料のロットが製品ロットまで追えるか。
  7. 動物実験の有無:EU 向けに非動物試験の構成が可能か。
  8. 有害事象の通報フロー:クレームを受けてから誰が何日でどこへ通報するか。契約書に書かれているか。

9. よくある質問

Q1:工場が「FDA 登録済み」と言っています。これで十分ですか。

いいえ。それは施設登録の話であって、製品の上市を保証するものではありません。米国では製品列名と責任者の指定が別に必要ですし、外国施設には US Agent も必要です。「登録済み」という言葉は、しばしばこの三者を混同したまま使われます。

Q2:同じ処方を EU と米国で同時に売れますか。

成分が両方で許容されれば可能です。ただし実務上は、紫外線防止剤、防腐剤、着色料でまず引っかかります。最初から厳しいほう(通常は EU)に合わせて処方を設計し、米国では表示だけを作り直すのが、もっとも手戻りの少ない進め方です。

Q3:オーガニック認証は必要ですか。

必須ではありません。COSMOS や Ecocert などの民間認証を取得する場合は、処方と工場の双方で審査を受けることになり、期間と費用が大きく増えます。まずは ISO 16128 に基づく自然由来指数を算出し、無理のない範囲で「天然」を語るほうが現実的です。

Q4:日本で売っている処方をそのまま輸出できますか。

処方そのものは可能でも、裏付けデータの作り直しが必要になることが多いです。とくに EU では、動物実験データが使えない点、安全性評価者による評価が必須である点が日本と異なります。

Q5:費用はどこで膨らみますか。

二か所です。ひとつは処方のやり直し(スクリーニングを後回しにした場合)、もうひとつは情報の不足(原料の規格書や安定性データがなく CPSR が止まる場合)。どちらも、工場への依頼の仕方で回避できます。


まとめ:順番を変えるだけで、費用は半分になる

EU と米国のコンプライアンスは、難易度ではなく順序の問題です。

責任者を決める → 処方をスクリーニングする → データを揃える → 届出・列名する → 表示を組み直す → 監視体制を置く。この順で進めれば、やり直しはほぼ消えます。逆に「サンプルを作ってから考える」順で進めると、かならずどこかで数十万円単位の手戻りが発生します。

QuickOEM のご案内:QuickOEM は 500 社を超える中国のトップクラス化粧品工場とブランドをつなぐ OEM/ODM プラットフォームです。輸出案件では、EU 附属書・米国州法の二重スクリーニングに対応できる工場を選別し、全成分 INCI と濃度レンジの書面、ISO 22716 認証、重金属・微生物・安定性・防腐効力の試験成績書、バッチ記録と COA までを一式で整えます。RP および US Agent の手配についても、実務経験のあるパートナーをご紹介できます。サンプル作成は 7〜15 日、量産リードタイムは 30〜45 日、最小発注数量は 500〜1,000 本から(輸出向けの大量生産は 3,000 本以上で単価が下がります)。まずは「売りたい国」と「言いたい効能」を一文でお知らせください。そこから順番に組み立てます。


本稿は一般的な実務の整理であり、個別案件に対する法的助言ではありません。規則や運用は随時更新されます。最終的判断は、必ず現地の薬事・法務の専門家および最新の一次情報に照らしてご確認ください。