美容医療の施術後に使うシート状の製品。中国では、こうした製品を医療機器として扱う枠組みが広く知られていますが、日本にはそれに対応する単一の概念がありません。日本では「その製品が何をうたうか」によって、化粧品・医薬部外品・医療機器の三つの世界に自動的に振り分けられます。そして「術後」「創面」という言葉を選んだ瞬間、あなたの製品は化粧品ではなくなります。本稿は、この境界を日本の制度に沿って引き直し、実際に何を揃えればいいのかを整理したものです。
1. 最初の分かれ道:化粧品/医薬部外品/医療機器
日本では、製品は三つの区分のどれかになります。ここを曖昧にしたまま工場を探し始めるのが、もっとも多い失敗です。
判断は、つねに「言いたいこと」からの逆算です。
- 「乾燥による小ジワを目立たなくする」「肌にうるおいを与える」で足りるなら → 化粧品
- 「肌荒れを防ぐ」「あれ性」まで言いたいなら → 医薬部外品
- 「術後の創面を保護する」「物理的に冷却する」と言うなら → 医療機器
順番を間違えないでください。製品を先に決めて区分を後から考えると、ほぼ確実にやり直しになります。
2. 「術後」「創面」と言った瞬間に起きること
実務上いちばん問題になるのはここです。化粧品として上市した製品の商品ページに、次のような表現が並ぶことがよくあります。
日本の化粧品は、健常な皮膚を対象とすることが前提です。破損した皮膚、出血のある傷、術直後の創部は化粧品の対象外とされます。つまり「術後に使える」と化粧品でうたうことは、自らその製品が化粧品の枠を外れると宣言しているのと同じです。
逆に、医療機器として承認・認証を受けた製品であれば、その範囲内で「創面を保護する」と書けます。ただし書けるのは承認された範囲だけで、そこに「美白」「エイジングケア」を足すことはできません。
ここが中国や欧米の実務と決定的に違う点です。日本では「化粧品の延長として医療っぽく見せる」という戦略が成立しません。表現を選んだ瞬間に区分が決まり、区分が決まると必要な許可が決まるからです。
3. 日本の医療機器は、三つの階層に分かれています
医療機器と一口に言っても、リスクによって手続きの重さがまったく異なります。
中国で「冷敷貼」と呼ばれていた製品群は、日本では二つに割れます。物理的な冷却だけを目的とするものはクラス I の冷却用パックとして届出されることが多く、創面の保護・湿潤環境の維持を目的とするものはクラス II の創傷被覆材として認証が必要です。同じ形のシートでも、意図した使用目的が違えば必要な手続きは別物になります。
既存の製品がどの一般的名称・クラスに該当するかは、過去の承認・認証事例を調べることでかなりの精度で見当がつきます。ここを最初に調べずに「とりあえず医療機器で」と進めると、クラス II の認証費用と期間を見誤ります。
4. 日本に置くための三つの主体
海外の工場で作った医療機器を日本で販売するには、三つの主体を揃える必要があります。
① 製造販売業者(日本法人)
医療機器の製造販売業許可は、日本の法人(または日本に住所を持つ個人)が取得します。海外のメーカーが直接取得することはできません。許可は三種類に分かれています。
日本に法人がない海外ブランドの場合は、選任製造販売業者(DMAH) を選任し、その会社に製造販売の責任を委ねる形をとります。術後修護の分野で多いのは、この選任方式です。重要なのは「選任すれば終わり」ではない点で、選任先と取り交わす契約で、品質情報の共有、変更管理、回収時の役割分担を明文化しておく必要があります。
② 外国製造業者届出
海外の製造所は、外国製造業者届出を行います。この届出は、品目ごとの承認・認証・届出とは別に、製造所単位で行われるものです。医療機器の場合、クラス II では登録認証機関による実地または書面での QMS 適合性調査が行われ、ISO 13485 相当の品質マネジメントシステムへの適合が確認されます。
③ 登録認証機関(クラス II の場合)
クラス II の認証は、国ではなく登録認証機関が行います。認証基準が整備されている品目であれば、基準への適合性確認と QMS 調査で進みます。基準がない、または新規性が高い場合は、PMDA の承認ルートに切り替わり、期間と費用が大きく変わります。
この三つの関係を、化粧品の「製造販売業許可 + 外国製造業者届出 + 品質取決め書」と混同しないでください。医療機器のほうが一段重く、とくに QMS 調査の実地対応が入る点が決定的に違います。
5. ISO 13485 と ISO 22716 は、別物です
ここが本稿でいちばん伝えたい部分です。
化粧品工場が ISO 22716 を持っていることは、医療機器の製造能力をまったく意味しません。ISO 13485 は、プロセスの妥当性を検証し、それを文書で証明する仕組みです。具体的には次のような記録が求められます。
- 設計開発管理:設計のインプットとアウトプット、設計検証と妥当性確認
- リスクマネジメント:ISO 14971 に基づくリスク分析と残存リスクの受容判断
- バリデーション:製造工程、滅菌工程、洗浄工程、包装工程
- 無菌・微生物管理:無菌試験(日本薬局方)、エンドトキシン試験、微生物限度
- 生物学的適合性:ISO 10993 シリーズ(細胞毒性、感作性、皮膚刺激性など)
- トレーサビリティ:原料ロットから製品ロット、出荷先までの双方向の追跡
- 是正・予防措置(CAPA) と変更管理
中国の工場に「ISO 13485 はありますか」と聞いたとき、「ISO 22716 ならあります」と返ってくることがよくあります。これは置き換えられません。創傷被覆材のようなクラス II を扱うなら、ISO 13485 の認証と、その運用実態を示す記録の両方を確認してください。
6. 製造委託先に求める 6 項目
付け加えるなら、滅菌方法の選択は製品設計の最初に決めるべき事項です。「あとで滅菌する」は成立しません。放射線滅菌で成分が分解する、エチレンオキサイドの残留が問題になる、といったことは設計段階でしか回避できないからです。
7. 費用・日程・最小発注数量の現実的な目安
最小発注数量は、医療機器のほうが大きくなります。無菌品は滅菌バッチの都合があり、5,000〜10,000 枚程度からの設定が一般的です。化粧品として展開する場合は 500〜1,000 本から始められます。つまり、「まず市場を試したい」なら化粧品ルートが合理的で、「医療機器としての主張が事業のコアなら、最初から認証の費用と期間を事業計画に織り込む」という判断になります。
8. よくある質問
Q1:うちの術後用ジェルは、やはり医療機器にしなければなりませんか。
「術後」「創面」をうたうなら、その必要があります。うたわずに「うるおいを与える」「肌を保護する」の範囲で展開するなら化粧品として上市できます。何を言うかで決まります。製品の見た目では決まりません。
Q2:選任製造販売業者を立てれば、責任は全部そちらに移りますか。
いいえ。選任製造販売業者には、製造販売する品目にかかる責任が生じます。そのため、処方や仕様の変更、原材料の変更、クレーム情報を日本側へ確実に伝える体制と契約が不可欠です。情報が滞ると、選任先がリスクを負いきれず、契約を打ち切られることになります。
Q3:ISO 22716 しかない工場でも、冷却シートなら作れますか。
クラス I の一般医療機器であっても、医療機器としての品質管理は求められます。ISO 22716 は化粧品の規格です。クラス I の届出であっても、医療機器製造の実績がある工場を選ぶべきです。
Q4:認証まで何も売れないのですか。
医療機器は、承認・認証・届出の前に広告できません。承認前の広告は法律で禁止されています。そのため、事業計画では「認証が下りるまで売上ゼロ」の期間を必ず織り込んでください。
Q5:化粧品と医療機器を同じブランドで展開できますか。
できます。実際、日本のクリニック向けブランドはこの二層構造をとっていることが多いです。ただし、商品ページ、パッケージ、店頭 POP で両者の表現を明確に分ける運用が必要です。混ぜて書いた瞬間に問題になります。
まとめ:区分を先に、工場は後から
術後修護は、リピート率が高く、単価も取りやすい、魅力のある領域です。しかし日本では、その魅力の源泉である「医療に近い」という主張が、そのまま参入障壁になります。
やるべきことは決まっています。言いたいことを決める → 区分を確定させる → クラスを見極める → 三つの主体を揃える → ISO 13485 の実態を確認する → 表現を承認範囲に閉じ込める。この順番以外は通りません。
QuickOEM のご案内:QuickOEM は 500 社を超える中国のトップクラス工場とブランドをつなぐ OEM/ODM プラットフォームです。術後修護の分野では、二つのルートをご用意しています。化粧品ルートでは低刺激処方の設計、ISO 22716 認証工場での製造、安定性試験・微生物試験・パッチテストの手配、サンプル作成 7〜15 日、最小発注数量 500〜1,000 本。医療機器ルートでは、ISO 13485 認証を保有し医療機器の製造実績を持つ工場を選別し、生物学的適合性試験、滅菌バリデーション、バッチ記録と COA、トレーサビリティの整備に対応します。日本側の選任製造販売業者のご紹介、外国製造業者届出の実務、品質取決め書の日本語での取り交わしまで、一貫してご相談いただけます。まずは「言いたい表現」を一文でお知らせください。そこから区分判定を始めます。
本稿は一般的な実務の整理であり、個別案件に対する法的助言ではありません。クラス分類、認証の要否、許可の要件は品目ごとに判断されます。最終的には、必ず薬事の専門家および PMDA・登録認証機関・所轄都道府県の最新の運用に照らしてご確認ください。