2枚の契約書は「シンプル」の証ではありません。問題が起きたとき誰が費用を負担するのかを、誰も決めていないという証です。

利益率を決めるのは単価表ではなく契約書です

化粧品OEM工場を比較するとき、話はほぼ必ず単価に収束します。A社は240円、B社は215円。25円の差で決まります。

これは見るべき変数ではありません。5,000個で25円は12万5千円。処方の帰属条項を間違えれば、製品ライン全体を失います。

日本市場にはもう一つ構造的な論点があります。薬機法では「製造業」と「製造販売業」が明確に別の許可であり、市場に対する最終責任は製造販売業者が負います。品質管理はGQP省令、市販後安全管理はGVP省令の対象です。そして重要なのは、GQP省令上、製造販売業者と製造業者の間で「品質管理に関する取決め」を文書で交わすことが求められているという点です。

つまり日本では、OEM契約書とは別に、あるいはその中に、品質取決めの内容が入っていなければ体制として不十分になります。海外工場の標準契約書はここが空白です。


8つの条項

1. 処方(レシピ)の権利帰属

ブランドを終わらせる条項は、たいていこれです。

開発費を払ったのだから処方は自社のもの、と考える方が多いのですが、そうはなりません。明示的な書面の帰属条項がなければ、処方を作成した側 — つまり工場の処方担当者側 — に権利が残るのが通常です。

3つの層に分けて書きます。

決める内容推奨文言
所有ノウハウ・特許の帰属「本処方に係る一切の知的財産権は甲(ブランド)に帰属し、乙(製造者)は甲の発注に基づく製造の目的に限り使用できる」
排他性競合他社への供給可否「乙は本処方および実質的に類似する処方を第三者に供給し、またはこれを基礎に開発してはならない」
人員担当者が退職した場合「乙は主要処方担当者に対し、退職後24か月間、本処方に関する秘密保持義務を負わせる」
交渉トーク:「処方は当社ブランドの中核資産で、資金調達の前提にもなっています。帰属条項を明確にしたいです。貴社の標準契約に記載がなければ、覚書として追加する形でも構いません。」

危険信号:「皆さんこの形で契約されていますので問題ありません」。この一言こそ、立ち止まる理由です。

区別すべき点: 工場が保有する既存バルクに香料と色調だけ変更する場合、買っているのは所有権ではなく使用許諾です。このモデル自体は健全ですが、専用開発の価格を払う理由はありません。どちらを買っているのかを先に決めてください。


2. MOQ(最低発注数量)と柔軟性

低MOQでの化粧品製造は起業段階で最も検索される条件であり、契約書で最も曖昧に書かれる条項でもあります。

見積書の数字は、契約書に入るまで効力を持ちません。4点を確定させます。

項目明記すべき内容
基準MOQ1SKUあたりの数量 —「およそ」「応相談」は不可
初回の柔軟性市場テスト目的でMOQの50〜70%での実施が可能か
混合ロット3SKU×400個で1,000個のMOQを満たすか
追加発注繁忙期の対応リードタイムの確約
交渉トーク:「まず自社ECと楽天で反応を見たいので、初回は500個で進められますか。売り切れたら次回は2,000個以上でお願いしたいと考えています。」

3. 納期の起算点と遅延時の取扱い

「30日」は起算点を決めるまで意味を持ちません。

発注日から? 前金入金日から? 資材入庫日から? この3つは2か月ずれることがあります。

3点を定義します。

  1. T0 — 契約締結、前金入金完了
  2. T1 — 原料・資材が全量工場に入庫し、製造可能な状態
  3. T2 — 完成品出荷、試験成績書発行

そのうえで結果を紐づけます。

  • T2から7日以内の遅延 — 保管費用は製造者負担
  • 7日超 — 発注金額の0.1〜0.3%/日の遅延損害金
  • 30日超 — ブランド側に解除権および前金返還請求権

逆のケースも書いてください。デザイン校了が3週間遅れたなら、T2も後ろ倒しになるべきです。片務的な契約は現場で機能しません。


4. 品質規格と不適合品の処理

「全部検査しています」は規格ではありません。基準を書きます。

段階検査項目根拠
原料受入同一性、純度、重金属、微生物供給元試験成績書+自社検証
工程内pH、粘度、外観製造指図記録書
出荷試験微生物限度、理化学規格自社規格+ISO 22716
第三者再検査ブランド側の独立検証権登録試験機関

不適合時の扱いも定めます。再加工の費用負担、返送物流費、再試験費用、そして市場回収が発生した場合の分担です。回収の実施義務は製造販売業者側にあるため、費用の求償条項を残さなければ全額を自社で被ることになります。


5. 価格の有効期間と改定条件

原料価格の変動は現実です。ナイアシンアミド、ヒアルロン酸Na、ペプチド類は年10〜30%の変動が常態です。加えて為替要因もあります。

構造はこう組みます。

見積有効期間:契約締結日から6か月
改定発動要件:検証可能な原料価格の±15%超の変動
手続:30日前の書面通知+購買証憑の提出
上限:1回あたり10%以内、年間累計20%以内
為替条項:基準レートと許容変動幅を明記
下方対称性:原価低下時は価格も見直す

最後の行は製造者側の原案にはまず入っていません。自分で追加してください。


6. 処方変更のコントロール権

工場は通知なしに原料供給元を変更できるのか。標準的な契約では、多くの場合できます。そして実際に頻繁に起きます。

以下を求めてください。

  • あらゆる処方変更にブランドの書面同意を要すること。同一INCI内での供給元変更を含む
  • 法規制に起因する不可避の変更は事前通知と代替案の提示
  • 変更後の全成分表と安全性資料の再提出
供給元が重要な理由: 同じINCI・同じ配合率のヒアルロン酸Naでも、供給元が違えば分子量分布が異なることがあります。表示は同一、使用感は別物です。@cosmeの口コミは敏感に反応し、そして貴社は、契約書の一行で防げたはずの問題を数週間かけて追跡することになります。

7. 秘密保持 — 処方より広く

一般的なNDAは技術情報で止まります。範囲を広げてください。

  • 販売データ、チャネル構成、取引条件
  • 発売時期と価格戦略
  • 取引関係の存在そのもの — 製造委託先を公表しないブランドは多く、工場サイトの実績紹介で露見した例は一度や二度ではありません

期間は契約期間+終了後3〜5年。例外は法令に基づく開示要求と既に公知の情報。違反時の責任は「法令に従う」ではなく、金額または算定式で書きます。


8. 契約終了と引継ぎ

すべての取引は終わります。別れ方は、関係が良好なうちに書きます。

場面取扱い
ブランド側からの解約60日前通知、進行分の精算
製造者側からの解約90日前通知、処方・金型移管への協力
重大な違反即時解除、違反当事者が損害を負担
資料の引渡し終了後30日以内に処方ファイル・工程パラメータを交付

金型が落とし穴です。 金型費を負担したなら所有権はブランドにあると明記してください。工場が数量条件で無償提供した場合は工場所有となるのが通常で、この事実は最も困るタイミングで判明します。


日本固有の論点:許可の所在・品質取決め書・外国製造業者

海外工場と組む場合、ここが最大のリスク箇所です。

事項通常の主体契約書に必要な内容
化粧品製造販売業許可ブランド側(または委託先の製造販売業者)誰が製造販売業者かを明記。「工場任せ」では自社商品をコントロールできない
化粧品製造業許可(国内)国内の充填・包装・保管を担う事業者国内側の許可区分(一般/包装等)と業務範囲を特定
外国製造業者の登録・認定海外の製造所中国等の製造所が日本向け出荷に必要な登録/認定を有していることを保証させる。未登録なら輸入できません(制度の最新の運用は輸入計画時点で必ず確認)
品質管理に関する取決め(GQP)製造販売業者と製造業者の間で必須逸脱時の連絡、変更管理、記録の保存期間、立入り・監査権を条文化
市販後安全管理(GVP)製造販売業者苦情・回収時のロット追跡協力とSLA、費用求償
医薬部外品として承認申請する場合製造販売業者承認に必要な資料の提供範囲、費用負担、提出期限を事前に確定

特に品質取決め書は、日本で薬事体制を組むうえで避けて通れません。海外工場の標準OEM契約に含まれていることはまずないため、別紙として提示し、変更管理と監査権を必ず入れてください。

もう一点。薬機法における効能効果の範囲(化粧品として標榜できる範囲)は明確に限定されています。工場が提示する訴求文言が中国国内向け・欧米向けの表現をそのまま翻訳したものであることは珍しくなく、そのまま使えば表示違反になります。訴求の適法性は、資料を作った側ではなく製造販売業者の責任です。


署名前チェックリスト

法務

  • [ ] 処方の帰属を書面で確定(所有+排他性+人員制限)
  • [ ] 秘密保持が技術情報と営業情報の双方を含む
  • [ ] 損害賠償が具体的で執行可能
  • [ ] 準拠法と紛争解決手段を明記(海外工場なら仲裁が現実的)

商流

  • [ ] MOQを数量で明記、初回に柔軟性
  • [ ] T0/T1/T2を定義し遅延損害金を連動
  • [ ] 品質規格が試験方法まで特定されている
  • [ ] 価格有効期間・改定要件・上限・為替条項が揃っている

薬事

  • [ ] 製造販売業者が誰かを確定(自社/委託先)
  • [ ] 外国製造業者の登録・認定を保証させている
  • [ ] 品質取決め書(変更管理・監査権・記録保存)を締結
  • [ ] ロット追跡協力のSLAと費用求償条項
  • [ ] 訴求文言が薬機法の効能効果の範囲内であることを自社で検証済み

よくある3つの損失

「これが弊社の標準書式です」 使用実績の多さは公正さの証明ではありません。過去の取引先の交渉力が、想像より弱かったという事実の証明です。

契約書に入らなかった口頭の約束。 「営業の方がMOQは相談可能と言っていた」— 営業担当は契約当事者ではありません。契約書に入れるか、少なくとも契約書が引用するメールに残してください。

単価だけ最適化して条項を見ない。 1個25円の節約は、処方が工場に帰属し、遅延に賠償がなく、品質規格が「協議のうえ」であれば意味を持ちません。


訴求表現について

工場が処方とセットで「臨床実証済み」の文言を提案してきた場合、使用前に試験プロトコルを請求してください。被験者数、対照の有無、測定機器、試験期間が、その表現が検証に耐えるかを決めます。工場の提案資料は実証データではありません。


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